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2016年6月30日

統合報告書は企業価値を高めることができるのか? (第4回)

今回は、戦略とビジネスモデルについて、海外の動きを参照しながら考えたい。

「戦略」と聞くと中期経営計画(中計)を思い浮かべる方々がいらっしゃるかもしれない。2000年が目前に迫ってきたころ、2000年を最終年度に設定した中計を発表する企業が増え、その後、3年ごとに新たな中計を発表するのが、日本企業の条件のようになってきたからである。

一方の「ビジネスモデル」は、「戦略」とセットで使われることが多い。ビジネスモデルは、利益を生み出す製品やサービスに関する事業戦略と収益構造を示す用語と理解されている(※1)。

これによるとビジネスモデルを定義するために、事業戦略が使われており、密接な関係にあることがわかるが、本稿では、実務上、戦略とビジネスモデルは独立して扱われることが多いので、ここでは分けて取り扱いたい。

さて、現在英国ではアニュアルレポート(AR)の開示事項の一つとしてStrategic Report(戦略報告書)が求められている。これはBusiness Review(事業レビュー)に戦略とビジネスモデルの記述を追加したもので、2013年からスタートした。英国企業のARをみると冒頭にStrategic Reportが掲載されており、ビジネスモデルの表現方法を検討するうえで格好のサンプルである。

もう一つビジネスモデルに関連して、国際統合報告審議会(IIRC)が提唱する統合報告フレームワークに、価値創造プロセスと呼ぶモデルがある。その形態から「オクトパス・モデル」とも呼ばれているが、価値創造プロセスでは、組織の中核はビジネスモデルにある、として、その中核へ投入するさまざまな資本・アウトプット・アウトプットがもたらす影響(アウトカム)まで表しており、社会の中で社会とともに成長を図る企業の活動を「見える化」した分かりやすいチャートと言える。

戦略とビジネスモデルは、企業にとって経営上、最重要な要素であるが、同時に、社外に自社の事業を伝え、理解され、支持されるためにも重要である。企業担当者の皆様は自社のことをよくご存じなので、社外に向けて自社のビジネスモデルを記載することが比較的少ないように見受けられるが、実は社外から見ると、自社と他社との違いは、戦略だけではつかみきれないのである。戦略とセットでビジネスモデルを開示されることを勧めたい。企業を評価するのは、社外のステークホルダーである。そして、その人々に評価されるためには、違いをひと目で見せないといけない。

その好例として、統合報告書を義務化している南アフリカの化学メーカーSasol社のAnnual Integrated Report 2015(AIR2015)(年次統合報告書)を挙げたい。IIRCのフレームワークと「南アフリカのコーポレートガバナンスに関するキングコード(キングIIIコード)」に沿って、ビジネスモデルからバリューチェーン、戦略、財務・非財務KPI(重要業績評価指標)まで開示しており、社外の人間が同社のことを理解するのに十分な情報を提供している。

また、米国では2016年に大きな変化があった。IR発祥の企業であるGeneral Electric(GE)社はARを10K Wrap(※2)にするとともにIntegrated Summary Report(ISR)(サマリー統合報告書)の発行をスタートさせた。冒頭、イメルトCEOの発言は、報告書の変革期と言える今日、象徴的である。「上場企業の報告が複雑になっており、投資家にとって大切な情報が失われつつある。当社は、すべての投資家が簡単にアクセスできる有意義な情報を提供する」と述べ、今後GEにとってISRが情報提供の中心となることを暗に示している。IRの原点である投資家視点を忘れていない点は素晴らしい。

統合報告書が企業価値を高めるには、企業価値を判断する主体である投資家をはじめとする社外のステークホルダーの視点で企業の活動を説明することが大切である。それも、シンプルに、そして大事なことを落とさずに。誰も自分自身のことはわからない。近道は、専門性のある第三者の意見を聞くことである。

出典

Sasol社 AIR2015

http://www.sasol.co.za/investor-centre/financial-reporting/annual-integrated-reporting-set

General Electric社 AR2015

http://www.ge.com/ar2015/

General Electric社 ISR2015

http://www.ge.com/ar2015/assets/pdf/GE_AR15_Integrated_Summary_Report.pdf

※1 国際統合報告審議会(IIRC)が提唱する統合報告フレームワークでは、ビジネスモデルを価値創造に向けた構造と定義し、アウトカム(アウトプットがもたらす影響)までを範囲として捉えている。

※2 米国証券取引委員会(SEC)へ提出する年次報告書Form 10Kに表紙やCEOメッセージ、製品紹介などのページを添付したARの通称

(株式会社ファイブ・シーズ代表取締役 越智義和)

http://www.fivecs.co.jp/

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