アナリストのつぶやき

2018年8月31日

IR適時開示の留意点

株価の低迷が続くと「何かIR情報はないのか。何でもよいからIR情報を出してほしい」という声が主に個人株主から企業に直接寄せられるという話をよく耳にします。何がしか株価を引き上げるような「よい材料」を出してほしいという株主の心情は十分に理解できるものです。しかし、IR担当者にとってこれは頭の痛い声と言わざるを得ません。重要な情報に関しては当然ながら遅滞なく開示を行っており、IR活動において株価は開示の結果であって、理由や動機ではないためです。確かに、企業からの何らかの情報発信に対し、株価が大きく影響を受けるケースは多々あります。そのため、株価を意識して適時開示の数を意図的に増やしている経営者も少なくないのが実情です。株主からの要請はそういった状況を意識したものと言えるでしょう。

とは言え、むやみやたらに適時開示情報を連発するのも考えモノです。これも言わずもがなですが、開示情報の連発では、どうしても内容が希薄化してしまいます。最初のうちは株価もそれなりに反応するかもしれませんが、そのうちに「どうでもよい開示」ばかりだと投資家から見透かされ、飽きられ、やがては呆れられてしまうリスクは否めません。一旦呆れられてしまえば、本当に企業側が訴えたい、強く主張したい事象が起きても、投資家に十分クローズアップしてもらえなくなってしまうこともあるでしょう。企業側としては、情報発信はしているのだからそれは市場の怠慢と主張もしたいところですが、これだけ情報が氾濫する中において、また3,700社を越える上場企業がそれぞれに「重要と位置付ける」適時開示を行う中においては、少なくとも優先的に注視される可能性は低下せざるを得ないと考えます。

では、IR情報の発信にはどういった点を留意すべきでしょうか。まず、当面の株価対策といったスタンスは避けるべきということです。あくまで株価は市場の評価であり、その評価を適時情報の連発で無理やり長期間維持し続けることはまず不可能だからです。言い尽くされた言葉ですが、「IRは株価を上げるためではなく、株価を安定させる(売買高、すなわち参加者を増やし適正価格を形成させる)もの」です。株価が長期低迷しているのならば、何故そういった評価となっているのかを留意したうえで、情報発信したいところです。テクニカル的には、適時開示情報ではそのニュースが企業価値の向上にどのように貢献するか、と言う事にしっかり言及しておく必要があります。特にTDnetに登録するPR開示においては、対象が投資家である以上、単なるPR広告にならないような内容にしておくべきでしょう。消費者と投資家では(仮にそれが同一人物であっても)視点は決定的に異なります。消費者向けの目線のみで投資家の関心を繋ぎ止めることは至難の業です。そして最も重要なのは、IRのスタンスが株主の属性も決めるということを認識しておくことです。長期的に会社を理解して応援してくれる投資家に株主になってもらいたいと企業側が考えるのならば、そういった投資家への訴求に耐えうる情報を地道に発信し続けなければならないのは当然です。厳しい現実ですが、安易な開示には安易な投資家しか、開示の不足には理解の足りない投資家しか、集まってこないのです。これこそが真の意味での株価対策に通じる道と言えるでしょう。

(寄稿 長谷部 翔太郎)

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