アナリストのつぶやき

2017年4月28日

投資家が一番知りたいこと

日本でも大企業においては、2000年代初めにはIR体制の整備が進み、その後、中小型上場企業間でもIRへの関心・意欲は高まり続けている。この間、証券取引を取り巻く社会的な要請を反映し、IRに関して、実に様々なトピックやトレンドが浮上してきた。話題となってきた言葉だけを取り上げてみても、古くはインサイダー情報、2000年以降になって、コーポレート・ガバナンス、コンプライアンス、そして、リーマンショック以降では、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード、更に直近ではフィデューシャリー・デューティー。カタカナばかりで舌を噛みそうになる。

また、投資家やアナリストの間で日々、議論となるヴァリュエーションにおいても、どの指標に注目するのか、等、流行があり、古くはEVA経営というのもあったし、2000年代前半の株がバブっていた頃には何でもかんでも「一株当たりなんとか」という指標を作り出して、何かと比べて安い、という議論が盛んだった時期もあった。こうなるとアナリストの「想像力・創造力」を競わせる、一種のエンターテイメントである。これをやり尽くした後に、リーマンショックを経て、数年前にはヴァリュエーションの原点回帰ともいえるROE議論が市場を席巻した。こう見てみると、ヴァリュエーションの流行の幅の大きさに驚く。

企業のIR担当者の中には、証券アナリスト検定会員やMBAを持っている方もおられ、こうなってくると、IRへのハードルはとても高くなってきたようにも見える。では、上場企業が、あるいは、これから上場する会社が、投資家と会う時に、これらすべてのトピックに精通し、自社の財務諸表やキャッシュ・フロー分析も完璧に説明できるようにしていなければならないのだろうか。

永年、中小型株をみてきた私が考える答えは、話題となっている言葉やトピックは認知していて、さらっと意味は分かる、くらいにはしておいた方がよいだろうが、その程度のこと、というものである。むしろ、この辺りのことはIRコンサルティング会社に任せてしまえる部分である。その時々に知っていた方がよいトピックなり、株式市場で話題になっている視点、その会社について投資家が多く抱いている懸念材料、といった「市場の目」をIRコンサルタントは常に持っており、それらをあらかじめ想定した上で、その会社にとってベストと思われる説明の仕方、ポイントを押さえた対応をアドバイスさせていただくことができる。会社がよいと思って使った言葉使いが、投資家目線ではネガティブに受け取られる言葉、という場合もあり、その言葉を変えていただくこともある。その結果、投資家は「この会社は我々の聞きたいこと、求めているものがわかっている」ことを確認し、安心する。

むしろ、投資家が一番知りたいことは、いつの時代も変わっていないと感じる。投資家が一番知りたいのは、「その会社はどういう変遷を経て、今の状態にあり、何を見据えて、会社を動かしているのか」、という極めて泥臭い部分である。

収益モデルを作ったことのある人なら誰でも、どんなに精巧なモデルを作ったところで、結論は作成者の恣意性に委ねられることを知っている。収益モデルの前提条件を少しでも変えれば、収益予想や目標株価は大きく変わる。よって、収益モデルは、様々な前提条件を元にシミュレーションを行うツールとしては不可欠だが、最終的な投資判断を下すのはモデルではなく、それを使う人である。

投資家はその会社の未来を予想する際に、様々な場面を想定する。競争が激化した場合、製品・市場が成熟した場合、市場構造が変わった場合、材料費が高騰した場合、経営責任者の集中力が切れた場合、採用がより困難になった場合、有事が発生した場合・・・、すべてを収益モデルで分析することは不可能だ。しかし、その会社をスケルトン状態から理解していたら、経営の前提条件が変わった時、その会社はどのように対応し、競争力と収益力がどう変わるかを肌感覚で見通すことはできる。数千億円を運用するような投資家ほど、この肌感覚を重視する傾向はある。

特に投資家への認知度があまり高くない会社や創業間もない会社の場合、その会社が属する市場自体が、大きく変化していたり、派生してできた新しい市場だったりする。その中でその会社がどういう立ち位置を築き、利益を得るようになったのか。臨場感を持って説明することで、投資家がイメージを持ち、心に響き、その会社をもっと理解したいと思うようになる。また、大企業の場合、すでにIR体制が確立していて、情報のアップデイトがIRのメインになってくるにつれ、ルーティンに取り込まれてしまう局面はよくある。よって、大企業であっても、折に触れ、自社のIRにおける臨場感、そして、投資家にどんなイメージを持ってほしいのか、といった大局の見直し、次のIRステージを描くことは重要である。

どうやったら会社説明が臨場感のあるものとなり、心に響くメッセージ、届けたいイメージを伝えることができるのか。これは、「市場の目」からの視点を持つ、経験豊かなIRコンサルタントが最も腕を振ってお手伝いできるIRコンサルティングの根幹ともいう場面である。この根幹に、前述したような、その時々の市場の関心事、懸念材料、キーワードを押さえた説明方法を加え、ポイントの見せ方を工夫することで、IRは完成する。マーケットに詳しいIRコンサルティング会社を活用し、企業価値向上に邁進できる環境を整えるのが肝要であろう。

(藤野雅美)

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