アナリストのつぶやき

2018年7月 2日

働き方改革や欧州の金融規制がもたらす、企業IRの新たな課題

株主総会シーズンが終わった。今年は独自の統治方針を説明する会社が増え、2014年に登場した日本版スチュワードシップ・コード等も、その運用に関して、株主側・企業側共に、随分と地に足がついてきている様子が確認された。

一方で、企業のIR活動には新たな課題が生じつつある。セルサイド・アナリストや機関投資家が、これまでの頻度で企業IR窓口へアクセスすることが難しくなっており、今後は企業側からアナリスト・機関投資家への効率的な接触、及び、短時間でその会社を理解してもらえるようなIRツールの用意をする必要が生じている。この背景は、上場企業の数が増え続けている一方で、セルサイド・アナリストは増えていないのに加え、政府の働き方改革の影響から、社会全般に勤務時間を減らす傾向が強まっており、日本のアナリスト・機関投資家もその例外ではないためだ。 また、欧州で導入された新たな金融規制(MiFIDⅡ)に伴い、証券会社経由での企業、及び、セルサイド・アナリストによる機関投資家への個別訪問は、世界的に様々な制限が加えられる傾向が見られる。 

このような状況にあって、これからの企業のIR活動では、以下の二点がより重要となりつつある。

(1)会社説明、中期経営計画等の資料では、ビジネスモデル、市場環境、強み、特徴、成長性の分析を企業側が準備し、適宜、資料にそれらを含めて説明する

すでにIRに熱心な企業の説明資料では、こうした説明が含まれるようになってきているが、今後はこの部分がより重要になるだろう。アナリスト・機関投資家による企業へのアクセスがより限定されつつある中では、企業の方から、機関投資家に関心を持ってもらえるよう、自社の概要を投資家目線での分析を加えて示す必要が生じているためである。また、外国人投資家向けには、とりわけ、この部分が必要となる。なぜなら、日本株だけを対象としている人よりも、アジア株全体、あるいはグローバルベースで投資活動をしている外国人投資家が多く、従来はセルサイド・アナリストが日本市場やその産業の特性なども踏まえて、彼らに分析・説明をしていた。しかし、セルサイド・アナリストの機関投資家へのリーチがより限定されていくのであれば、この部分も今後は企業自身が行っていかなければならないだろう。

「ビジネスモデル、強み、特徴、成長性」の説明には、機関投資家が必要とする数値的なデータ、及び、経営体制、収益ドライバーの説明といった定性的な要因、の二種類を提供する必要がある。また、機関投資家がその企業への投資を確信する場面では、いくつかの定型パターンがあり、それらを踏まえて、情報提供することで、その説明資料はより彼らの琴線に触れるものとなる。

(2)決算説明(定量情報)はなるべく定番に近いものにする

決算説明資料の中で、決算を説明する定量情報はフォーマットが決まっている訳ではなく、また、時の流れと共に、資料の傾向に変化も見られるが、とはいえ、定番がある。決算説明の内容には進化があったとしても、なるべくこの定番を基本とした方がよい。その理由は、決算は毎四半期ごとにあり、その時期にアナリスト・機関投資家は何件もの決算説明会に出席するため、定番にそって情報を追うことに慣れている。定番の資料は、アナリスト・機関投資家が必要とするデータを通常、過不足なく網羅している。よって、決算説明の内容が異なると、違和感があるだけでなく、必要なデータの開示・掲載がないと受け止められる可能性も高くなり、IR活動がその企業に浸透していない、つまりはアナリスト・機関投資家のニーズ・期待値をその企業が理解していないかもしれないという印象を与えてしまう。

多くの企業が決算発表や株主総会という大きなイベントを終え、ホッと一息ついているタイミングと思われるが、新年度からは、是非、このような状況を念頭に置かれ、IR戦略を進めて欲しい。

藤野 雅美

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