アナリストのつぶやき

2016年5月19日

ROEの前後の話、、、一番聞きたいIRストーリー

また、ROEの話か、と思われたら、恐縮である。それくらい、ここ数年間、ROEという指標がメディア、企業の戦略説明等でよく取り上げられてきた。しかし、ROEの概念が、日常的に行動する際の指針として、定着しているのは、依然として、一部の大企業やプロの投資家、証券関係者に限られるのでは、という印象がある。リスクを悪いことと捉える日本の風土においては、ROEの概念は自然に出てくる発想ではなく、学ぶことが必要なのだと思う。

新聞・雑誌や、書店に並ぶROE経営を標榜する本には、ROEの計算式や、その分解(デュポン・システム)は解説されている。だが、その前後の話、つまり、なぜROEという発想が出てくるのか、何を根拠にROEは何%がよいと決めるのか、といった話まで説明されているものを、見た記憶がない。だが、まずはこの概念を知ることで、中堅企業、創業から間もない法人、個人事業主、あるいは、一個人であっても、行動に変化が生じてくる。

ここからの話は、釈迦に説法であったら、申し訳ないが、一方、証券関係の業界以外では、意外に浸透していない概念かもしれないと感じることがよくあるため、平明にまとめてみたい。

お金を持っていて、ほったらかしにしていたら、つまり、全くリスクを取らなかったら、どうなるか。金融用語ではそれをリスクフリーレートと呼び、通常、その国の10年物国債利回りを用いる。2000年以降、日本のリスクフリーレートは約2%が常識だったが、時は流れ、今やなんと-0.12%である。なんらかのリスクを取って、このお金で何かをするとしたら、当然、リスクフリーレート以上の利回りを目指さなければ、意味がない。この、なんらかのリスクを取って得る利回りがROEの概念である。

例えば、誰かが自分のお金を元手に、なんらかのビジネスを始め、売上から経費と税金を払っても、手元に利益が残ったとする。この利益を元手で割った数字がROEだ。仮にこの時のROEが10%だとしたら、この人は、ビジネスを始めるというリスクを取った結果、10%の利回りを手にしたことになる。

どのような種類・規模のリスクをとって、どれだけのROEを目指すべきか、それには経験がものをいう。企業も個人も同じだ。経験することで、さじ加減がわかってくる。リスクテイク(リスクを取る)の具体例はその資金でビジネスを始めるだけでなく、不動産、株式、人材、時間への投資、と様々である。経験がなくて当然の、若い経営者や個人でも、すでに起業や、投資をしている人達と親しくなり、リアルな実例を見聞することで、肌感覚に近づくことはできる。次に、投資が失敗した場合のワーストシナリオを想定することで、どこまでの規模のリスクテイクであれば、仮に失敗しても再起可能かを把握し、その範囲内で、小さな規模から、実際にリスクテイクを実行し、経験の段階へと進む。そして、経験を検証し、軌道を修正し、次のリスクテイクに活かす。

このステップを踏むことで、その法人や個人にとっての適切なリスクの規模、ROEターゲットが見えてくるようになる。このプロセスこそが、投資家が最も聞きたいIRストーリーだ。すでに事業を立ち上げた企業であれば、仮にROEの概念がなかったにせよ、このプロセスをいつの間にか踏んできているはずなのである。既上場会社であれば、負債をどう活用するかという、レバレッジ効果の範囲まで、ROEターゲットの前提要因として、すでに意識してきているであろう。私達コンサルタントがお手伝いをすることで、このプロセスがつまびらかにされ、投資家にとって、理解しやすく、時にダイナミックで魅力的なIRストーリーへと編纂されていく。これが、私たちコンサルタントの醍醐味と感じている。

(藤野雅美)

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