アナリストのつぶやき
- 2017年3月23日
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貴社のIR活動は機能していますか?(第5回)
「IRコンサルティングの使い方」
さて、今回は「IRコンサルティングの使い方」について、まとめてみましょう。IRパーソンの中には、外部機関であるIRコンサルティング会社と既に何らかの取引をされている方もおられることかと思います。IR活動には自社への深い理解に加えて対投資家、対市場という視点が不可欠になりますが、事業会社自身にそういったノウハウが蓄積されているケースは稀です。そのため、その道のプロであるIRコンサルにヘルプを仰ごうという選択が出て来ることはむしろ当然でしょう。もちろん、コンサルに頼らず自力で市場に正対するという手もありますが、ノウハウ蓄積までの試行錯誤期間においては、市場にメッセージが適切に伝わらないなどのリスクを抱えることになります。ステークホルダーの利益を考えれば、そのリスク抑制のためにもIRコンサルの活用は意味があると考えます。しかし、現実問題として、IRコンサルを「存分に活用できている」と胸を張って言えるIRパーソンは果たしてどれだけおられるでしょうか。筆者の見るところ、満足度が高いようには決して思えないのではと想像しています。
そもそもIRコンサルを使うメリットは、コンサルタントの知識と経験に基づくノウハウの活用に加え、IRに関する最先端で広範囲な情報の入手にある、と考えます。ここでいうノウハウとは、企業側の発信をより効果的・効率的に行い、かつ市場からの声を受信するための手法であり、現実にはそれを各社のIR方針に沿ってオーダーメイド化させる技術も含まれると言ってよいでしょう。また、IRに関する情報とは、ESG(環境・社会・ガバナンス)に代表されるIRのトレンドや他社のIR事例などを指し、ステークホルダーの疑問や懸念、興味に先んじて対応するための判断材料となるものです。これらはそれを専門とするIRコンサルならではと云えるものであり、そこにこそ付加価値があると云えるかもしれません。IRがなかなか成果の出難い業務であることはこのコラムの初回でも触れましたが、IRコンサルというプロの視点を入れ込むことで、より具体的なゴールが設定しやすくなることも、間接的ながらそのメリットとして捉えることも可能です。すなわち、IRコンサルを有効に使う秘訣は、こういったメリットにいかに上手く引き出すか、ということに帰結すると考えます。
にもかかわらず、IRコンサルへの満足度が低い場合というのは、大きく2つの理由が考えられます。一つはコンサル側の能力が不足しているケース、もう一つは事業会社がIRコンサルをどう活用するかがぼんやりとしているケースです。前者は論外ですが、筆者は後者の実例を多く見てきました。やや極端な例ですが、事業会社が「大船に乗った気分でコンサルにすっかりお任せ」となってしまうような場合はその典型でしょう。具体的な期待が不明なままでは満足度が高まることもまずありません。コンサルはあくまで効果的な手段の提案・提供をするツールの一つでしかなく、コンサルを有効活用するには、やはり事業会社ご自身がどう改善したいかの具体的な方針の決定と実践が不可欠なのです。あるIRコンサルタントが面白い表現をしていました。IRコンサルは、その方専用のダイエットトレーナーのようなものであると。トレーナーとして誠心誠意のアイデアを提示するが、ダイエットが成功するかどうかは、ご本人の意思と努力が決める、というのです。別の云い方をすれば、IRコンサルは逆上がりの補助板とも位置付けられるでしょう。逆上がりをするのは事業会社ご自身であり、補助板はあくまでのそのためのツールということです。ここにIRコンサルを使いこなす根本的な秘訣があるように思いますが、いかがでしょうか。
そして、IRコンサルの起用をより効果的にするには、もう一つ考えなければならない視点があります。コンサル側の能力を如何に見極めるか、です。次回は本コラムの締めとして、その重要な視点となる「IRコンサルティングの選び方」についてお話ししたいと思います。
(長井 亨)