アナリストのつぶやき

2017年3月 9日

貴社のIR活動は機能していますか?(第4回)

『適時開示情報「書き方」の落とし穴』

さて、今回のテーマは適時開示情報について、です。やはりIRパーソンの中には、適時開示情報を作成していて「これで本当に大丈夫かな?」と不安に駆られた経験があるのではないかと想像します。適時開示情報は、可及的速やかに開示が求められる内容がその対象になるため、場合によってはかなり時間に追われての対応が求められます。ある程度見切り発車とならざるを得ない局面も少なくなく、無難な定型文を開示してお茶を濁すということも多いように感じます。また最近では、記者会見が「重要な経営課題について」とされていたことが独り歩きし、それが人事情報であるということまで適時開示情報するに至った例もありました。適時開示は株価への影響も大きいため、IRパーソンとしては胃の縮む業務の一つというのが本音かと推察します。

筆者の見る限り、混乱を招く適時開示情報には、いくつか共通点があるように思います。第一には、抽象的な表現です。これはあまり具体的な物言いはしたくない、という純粋な防衛本能に基づくケースです。開示義務の履行を最優先とし、読み手にどう伝えるかは(極論ですが)二の次というスタンスとも言えます。ですが、具体性を欠く表現は、読み手(投資家・アナリスト)が過剰反応するリスクを抱えることに繋がります。その影響のマグニチュードが予測できないと判断すれば、読み手は当然一旦当該企業を投資対象から切り離して考えようとするため、です。投資家に向けて誤解や憶測が発生しないように重要情報を速やかに公表開示するという本来の趣旨とは裏腹に、開示情報によってさらに憶測やリスクを喚起するという皮肉な結果を招くケースと云えるでしょう。開示情報で重要なのは、いかようにも解釈できるような表現は避け、憶測が生じる余地を極力抑制することです。これらは、そういった表現になっているかどうか、開示情報のリリース前には念入りにチェックしていただきたいポイントです。

第二には、積極的に伝えようとする意志はあるものの、読み手の視点を欠いた文書です。この背景にあるのは、書き手(会社側)の常識(認識)が読み手(投資家・アナリスト)の常識(認識)と一致しているとは限らない、という現実です。開示情報が「業界の常識」「自社の常識」に縛られて言葉不足となってしまえば、やはり誤解や憶測を生みかねません。書き手にとってはどうしても面識のあるアナリストや機関投資家を読み手として想定してしまいがちですが、それは読み手のごく一部に過ぎないことは是非ともご留意をお願いしたいところです。第三には、目的を欠いた内容です。事象面での詳述は当然として、どういった目的でそういった経営判断に至ったのか、にまで言及したリリースは決して多くありません。しかし、読み手は目的を知ることで、企業の狙いやその方向性への理解を深めるものです。会社を理解してもらい、長期的なステークホルダーを確保していくためには、そういった努力は不可欠でしょう。投資家やアナリストは、その目的を知ることで会社の行動原則を推察し、将来を予想していくものなのです。また、文書の作成日時もご留意いただきたい点です。新聞などで観測報道がなされた際、「本報道は会社発表ではなく、現時点で発表すべきことはない」と反応されるのはよくあることです。しかし、その後、新聞報道に沿って発表されたリリースは(プロパティに残る)作成日時が観測報道前のものであった(つまり、その前のリリースは嘘であった)と指摘されるケースも少なくありません。これらは些細な事ですが、やはり会社発表の信頼性を損ないかねないことをご認識ください。

今回はかなり実践的な視点でまとめてみましたが、お役に立ちましたでしょうか。自社からの発信を宣伝あるいは正当化したいあまり、相手にわかるように表現する基本姿勢が疎かになっていないかどうか、情報発信の前に今一度ご留意いただければ幸いです。次回は、的確な情報発信のための「IRコンサルティングの使い方」についてお話ししたいと思います。

(長井 亨)

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